国が制度化を推し進めている給与デジタル払い。銀行振込ではなくスマホの決済アプリに直接入金される形で、ATMで現金化できる案もあるようですが、そもそもなぜ国はこのような仕組みを作ろうとしているのでしょうか。理由や背景、真相について説明します。
これはあくまで私見です。国が給与のデジタル払いを推し進める「本当の理由」は「本人のみぞ知る」ということで国にしか分かりません。「そんな考え方もあるんだな」として参考になればうれしいです。
デジタル払いが実現するとどうなるか
労働基準法でも給与については、労働者に全額を現金で直接支給するように定められていて、省令によって金融機関の口座(銀行など)へ振り込みすることも認められています。
そのため、現在は会社員の給料、個人事業主や会社の報酬は原則、銀行振込などで現金支給される形がほとんどですね。
それが「給与デジタル払い制度」ができると、給料や報酬の受け取り方が今後変化する可能性があります。
PayPayなどのスマホ決済を使っている人も多いと思いますが、これらの一定の条件を満たすアプリに直接入金される形になります。
いまは給与振込先などの銀行口座や口座と紐付けされているクレジットカードからアプリに入金する形ですが、その手間が省けます。
デジタル払いが将来本格化すると、毎月給料日に銀行ATMに行列ができる光景も変わるかもしれません。
現金化はできる?
そうはいっても、まだまだ銀行振込を使うシーンは多いため、全額デジタル払いになると不便が発生するシーンも多発すると思います。
それについては国も検討しているようで
スマートフォンの決済アプリに給与が直接入金される「デジタル払い」の解禁に向け、厚生労働省は19日、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会に制度設計案の骨子を示した。骨子によると、デジタル払いで受け取った給与は、支払い当日に現金自動預払機(ATM)などで1円単位で現金化できるようにする。アプリ運営会社が経営破綻した場合は、保証機関などが支払いを肩代わりし、数日以内に受け取れるようにする。
※引用元:時事通信社(2021/4/19)
個人情報や資産の安全性は?
デジタル払いの場合、昔から言われていますが、個人情報や資産の安全性へのリスクや懸念はどうしてもつきまといます。
- 個人情報流出のリスクは?
- 入金される給料がもし消失したら?
- アプリが不正利用されて資産がなくなったら?
- 決済の事業会社が破綻したら資産は守られる、それとも泣き寝入り?
など、現在は銀行などの金融機関が莫大なコストをかけて仕組み化しているものを決済会社は担保できるのか、いざというとき保障してくれるのかといった不安はありますね。
デジタル資産を現金化できる場合も
- 出金手数料はどうなる(事業者負担、それとも個人や会社負担?)
- 毎月1回まで無料扱い?
- 給料支払い日のみ無料扱い?
- どこのATMで現金化できる?
- 今まで通り銀行やコンビニのATMでできる?
といった問題も山積していると思います。
これは推測ですが、現金化はできるけど、現金化するほうが損をする(出金手数料が高いなど)仕組みになるかもしれません。
いまの高速道路のETCのイメージですね。
同じ区間を走って現金払いの通常レーンだと3000円、ETCを使うと2000円といった感じで差がついていますが、これと同じようなことがスーパーやコンビニでの支払いなど、日常生活でも起きるようになると思います。
同じパンとおにぎりを買ったのに、現金払いのAさんは500円、完全キャッシュレス決済のBさんは250円といった感じですね。
そうはいっても、
デジタル払いされても、結局は銀行口座に移動させたり、現金化して使わないといけない場面はまだまだ多いので、かえって手間がふえる可能性も高い。
このあたりの関係がどうなるのか楽しみでもあり不安でもあります。
課題や懸念材料はまだまだ多い
給与や報酬のデジタル払いが制度化されたとして、
- 希望者のみになるのか
- 段階的だとしてもいずれ強制になるのか
- 既存の現金や銀行振込手続きとのバランス
- 不正アクセスや不正利用で資産が消えたときの保障などの問題
などの課題、懸念材料はまだまだ多いと思うので、このあたりをどうするのか気になります。
ネット上のコメントにもありましたが、もしデジタル払いにしたいなら、まずは税金関係の支払いを電子マネーでできるようにしてほしいといった声もありますね。
狙いは何か
様々な課題や懸念材料がたくさんあるなかで、そもそもなぜ国は給与のデジタル払いの仕組みを作りたいのか。
銀行口座を持たせたくない、使わせたくないのかといったコメントもありますが、入金から出金に至るまで全ての取引状況や履歴をガラス張りにしたいのかなと思っています。
現金の場合、紙幣やコインに個人の名前が書かれているわけではないので、
・いつ
・どこで
・誰が
・何を
・どのように
・なぜ
5W1Hの情報を全て把握できるわけではありません。
それが入金はデジタル、出金や支払いも全てデジタルになると
- どこから、いくら入金があったか(勤務先、収入金額の情報)
- 出金、送金、支払いの日時
- スーパーやコンビニで支払った
- ○○さん(年代、性別、職業なども含む)
- おにぎりやパンをいくら買った
- PayPay利用
- 昼間なのでお昼ごはん目的か
といった情報がガラス張りになります。
これらの情報はビッグデータとも呼ばれていますが、個人情報を特定することがなかったとしても、人々の行動傾向をデータ化できます。企業にとっては喉から手が出るほど欲しい情報です。
国としてもマイナンバー制度を推進して、国民の資産を把握しようとしていますし、今度は収支の細かい情報や行動履歴、行動傾向まで入手できるようになります。
それに、もし完全デジタル化されると、現金がいらなくなるので紙幣やコインの管理コストが大幅に下がります。このあたりも視野に入れている可能性はあります。
まとめ
もちろん、これらはあくまで個人の推測なので、この通りになるかどうかは自分自身も分かりません。
ただ、デジタル化は便利になる反面、あらゆる行動履歴が可視化されることになるので、デメリットやリスクも考えた上で付き合っていきたいなと思います。